『ようクロ。元気か?」
「それは誰に対して聞いてるんだ?」
『もちろん、娘とお前にだよ』
「……どっちも元気だよ」
深夜にナツから電話がかかってきた。深夜に……深夜に電話してどうするんだよ。ナギちゃんが起きている時間にかけろよ。まあ、仕事、か。ずっと働いている。荒稼ぎ。
『実はな、日本での仕事に戻ることになった』
「…………はぁ?」
なん……だって?
「それって、つまり……」
『日本に帰れるってことだよ。仕事も、昔ほどぎちぎちなものじゃねぇ。ナギのために、時間を作れるようにする』
「それは……よかったな」
よかった、な?
『その言葉は俺じゃなくて、ナギに――いや……。……しかし、もう五年生なのか……』
「不安なのか?」
『当たり前だろ。俺のことなんかたまに会うおじさん程度にしか思ってねぇかもしれねぇからな』
「…………」
正解。
『いまから親子なんて、やれるかどうか』
「大丈夫だよ」
それこそ僕だって、しばらくしたらそういうおじさんがいたなぁくらいにしか思われなくなるんだろうし。きっと、そんなものなのだろうし。
『なあ、クロ。ナギは今の町を気に入っているか?』
「まあ、そりゃぁ……」
明日はカメラで風景を撮りに行きたいと言っていたし、出かけるときもナギちゃんは町のいろんなことを教えてくれる。
『そうか……言いづらいんだが、戻ってくるにあたって引っ越すことにしてるんだ』
「なに!?」
『会社の近くに、な』
「そ、そうか」
『あ、ちょっと待ってくれ。――――――。わりぃがここまでだ。また、電話するからよ』
「ああ」
…………ったく。
ナギちゃんの親代わりも、もうそろそろ終わりなのか。
別れは、慣れない。
家族との、別れは。
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