もしも娘が生きていたらなんて、思わないわけがない。僕とカンナさんで育てた子は、ナギちゃんと友達になれただろうか? カンナさんも僕も、甘やかしてしまうだろうから、そういう子に育ってしまうのかもしれない。でも、同い年でも、しっかりもののナギちゃんが友達としていてくれたら、それはきっと、とても助かることだろう。カンナさんなんかは、娘がませてるナギちゃんと付き合うことに不安を抱くかもしれないな。いささか、過保護の素質はある人だったから。生まれるまえから、防犯ベルとか買っていた人だから。
ナギちゃんは僕に向けていたカメラを落とす。紐で首から提げているので、床には落ちない。
「は、はい?」
「だから、ナツが――おとうさんが帰ってくるんだって。それで、引っ越すことになるらしいんだ」
「だ、誰が、ですか?」
「ナギちゃん、が」
「………………そうですか」
寂しそうな調子で、短く切るようにそう言うナギちゃん。寂しいのは、僕も同じだ。
この家で、ナギちゃんと二人で三年暮らした。その前から、頻繁にここに来ていたナギちゃん。
娘が、一人で寂しそうにしていたようにみえて――はじめはそんな理由で、ナギちゃんに声をかけた。
一人でお留守番?
はい。
偉いね。
いい子ですから。
寂しくないの?
……寂しくない。
僕は寂しいんだ。だから、一緒に遊んでもいいかな?
……本当はね。
うん。
わたしも、寂しいんです。
……うん。
わかってる。寂しいのは娘なんかじゃない。娘は、カンナさんと一緒のはずだから。
娘と妻を失った僕に、母親を知らず、父親は仕事で忙しくなかなか会えないナギちゃん。
僕たちは、ただ、寂しかったんだ。
「……今度は、時間がつくれるって言ってたよ」
「お、おとうさんの言うことですから、ね。まあ、お仕事だからしょうがないのでしょう」
でも、寂しいんだろ?
僕はナギちゃんを、知ってるから。
「それは、いつの話なんですか?」
「詳しくはまた連絡するって言ってたけどね」
「そうですか……では早く、オリジナルの料理を完成させなければいけませんね」
「……味見は、しなくていいよ」
危ないからね。本当に。
「クロさん、明日私、学校早くに終わるのですが、その……」
「時間は、つくれるよ」
「……お願いします」
ナツ、
お願いだから、
帰ってくるな。
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