ナギとナツとクロ

 いやはや、再びこの家に来るまでに、すでにかなりのフィルムを消費してしまいましたね。まあ、これはしょうがないですよ。故郷みたいなものですから。見ていれば写真も撮りたくなります。


「驚きますかね?」


「まあ、驚くだろうよ。驚かないと許さねぇ」


「そうですね。驚かないと、許しません」


 その驚く顔を写真におさえるために、カメラを構えます。


「押すぜ」


「押しちゃってください」


 インターフォンの音。玄関近くにいたのか、すぐに扉の向こうで靴を履く音が聞こえます。おやおや。


「はい。どちらさまで…………え?」


「その表情、いただきです」


 シャッターを押すと、まぬけな顔をしたクロさんの写真が出てきました。


 傑作です。


「ようクロ。久しぶりだな」


「お久しぶりです」


 自然に顔が緩むのを感じます。クロさんは、いまだに混乱しているようです。


「え? あ……ナツに、ナギ、ちゃん?」


「見てください。制服です」


「あ、ああ。今年で中学生になるんだよね?」


「俺、仕事やめた」


「え? あ、はぁ?」


「そんで、また隣の家に住むことになったから」


「そういうことです」


 これだけ言ってもまだ混乱のご様子。まったく、クロさんは突然のことに弱いですねぇ。


「え、じゃあ、あれ?」


「また、よろしくな。おとなりさん」


 父親が二人、ですか。まったく、寂しいの意味を忘れそうですね。


 カメラを構え、シャッターを切る。


「よろしくお願いします。『お父さん』」


 混乱しながらも、うれしそうな顔のクロさんの写真が出てきました。


 これも、傑作です。

 


END




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